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2017/10/23

実検するおじさん

aune B1sはこだわりが凝縮された良質なアナログアンプ【レビュー】

ポータブルヘッドホンアンプというのは縁のない人には全く縁がありませんが、好きな人は色々と試したくなるジャンルの商品ですね。
オペアンプを中心にヘッドホンアンプに使用可能な(もしくは使用を想定された)高性能なICが安価に出回っている現在、非常にクラシカルな構成のアンプを、継続してアップグレードしながら販売しているメーカがあります。

aune audio(公式サイト)です。

2017年10月末にauneよりB1というAクラス動作のディスクリートアンプがバージョンアップされてB1sとして発売となります。今回は七福神商事(TSH Corporation : Amazonストアフロント)よりサンプルをお借りしましてレビューいたします。


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〇ちょっと待て、ディスクリートってなにさ?


 ディスクリートを説明する前に、ICの説明をした方が分かりやすいかもしれません。ICとはIntegrated Circuitで、集約された回路という感じの意味です。ICの中には細かな要素がギュギューッと詰め込まれています。なのでその組み合わせで複雑な動作をします。

 ディスクリートは、分離された、という意味です。先ほど、ICには要素が詰め込まれている、と説明しましたが、その要素をバラバラにバラした状態を指します。要素がバラバラになるので、それぞれの部品はごく単純な動作しません。具体的には、トランジスタ、抵抗やコンデンサ単独の状態を指します。
 この要素をひとつひとつ組み合わせて、アンプの機能をするように回路を構成した物がディスクリート(回路)と呼ばれるものです。本当に昔々はICが無かったので全部がディスクリートでした。
 現在は高性能なICが登場し、ノイズの観点や製品のバラツキの管理の観点から、ICを使用した場合の方が安価に簡単に良い結果が得られるようになってきています。

 と、ここまでは一般論とか素人が取り組むと、という話で、ディスクリートで構成しても設計や品質管理をしっかりすればノイジーにならないし、バラつきも問題にならないです。また、各要素をひとつひとつ選択し、組み合わせることができるということは、色々と行き届いた設計ができる分、ディスクリートの方が『設計者の思想』を反映しやすい形式になります。


 とまぁこんな感じなのですが、ディスクリートなんて面倒な回路構成を採用して販売を継続しているのは面白いなぁというのがauneに対する私の感想です。


〇A級動作ってなに?


 これについては結構知識が要りますし、私も何となくしか分かっていなので、詳しい所に説明を譲ります。

外部サイト
トランジスタを用いた周波数逓倍回路の動作。C級増幅と歪と高調波の関係


 簡単に、誤解を恐れずに言ってしまうと以下の感じでしょうか?


 あなたが、指示されたとおりの力で物を押すとしましょう。押す力がゼロか微小という状態で微調整するよりも、ある程度押しながらその中で調整したほうがやりやすそう、と何となく思いませんでしょうか? 実は、アンプの中でも同じような状態になっていたりします。
 アンプは、指示されたとおりの信号をきっちり何倍かに大きくして出力する機械なので、正確に動かしたい場合は、力を調整しやすい状態の方がやりやすそう、というのは何となくイメージできると思います。

 で、力を調整しやすい状態というのはどういうことか?ということですが、トランジスタの役割を少し説明しておきましょう。

 トランジスタは、電流増幅をする要素で、ほんの少し電流を流すと、それに応じてたくさんの電流を流す様に動作します。(電流が突然発生するわけではありません。流れ方を調整するだけです。よく、水の蛇口に例えられます。)
 この時の流し方の特徴は、メーカがデータとして出してくれています。これがいつでも直線的に変化するのだと良いのですが、電流量によって、あまり流れなかったりたくさん流れたりするように関係が変わってしまいます。

 最初に言った通り、アンプは、指示されたとおりの信号をきっちり何倍かに大きくする装置なので、このように関係が変わってしまうのは良くありません。そこで、関係が安定しているところだけを上手く使ってやろうという考え方がA級動作です。


 ここまで聞くと、すべてA級動作にした方が良さそうなのはわかりますが、ネガポイントは何でしょうか?

 先ほど、ある程度力を出した状態で調整した方がやりやすいのでは?と言いました。つまり、その分、余分な力を出し続けた状態と言い換えることができます。そうすると疲れてしまいますね。

 トランジスタも同じで、関係が安定しているところに入るようにしておくには、電流をある程度流し続けて(アイドル電流)おく必要があります。その結果、電池を消耗して使用可能時間が短くなったり、発熱が大きくなったりします。使用電流(電圧)範囲を考慮した設計だけではなく、放熱設計や使用可能時間の計算など面倒ですし難易度も上がります。

 とりあえず理解しておいてほしいのは、面倒なところをこだわって設計しているのがA級動作のアンプ、ということになります。(ICの場合は、そういうことを考えなくてよいように、上手い具合に妥協できる設計になっていたりします。)


〇aune audio B1s


 さて、前置きが長くなりました。aune B1sは、B1というベースとなるモデルがあり、2017年バージョンとして10月末に発売となります。あまり詳しくないのですが、B1自体はバージョンアップが続けれらており、LTDという限定仕様も2017年夏に発売になっていました。

 片面は、ディスクリートを主張するような窓になったデザイン。中を見ると左右対称になるように配置されています。見栄えを狙ったのかこの部分の実装密度はそこそこ高めですね。この部分だけを見る限りでは、実装の品質もそこそこ良いようです。

  スイッチはゲイン切り替え、アイドリング電流(40mA 20mA)切り替え、電源、逆側の面に電池残量表示があります。
 個人的にかなり好きなデザインです。極控えめながら、側面のくびれが誤操作防止になっているという合理的なデザインです。ボリュームが浮いた感じになっているのがもったいないなぁ、という感じはしますが(苦笑)


〇音の傾向



 音の傾向を試す、と一言で言っても、使用するイヤホン&ヘッドホン、およびDAPによって結果が大きく変わることが考えられます。DAPは1つしかないので、そこはご容赦いただいて、以下では、いくつかのイヤホンとヘッドホンを入れ替えながら得られた感想をまとめて記載します。


★アンプの有無による差

 アンプを繋ぐと、やや暖かみのある中低音側が出る雰囲気になる。全体のバランスを崩すほどではないし、中低音が出るからといって高音側が落たりしない。高音の鮮やかさは残しつつ、刺さりが抑えられる感じ。刺さりが抑えられた分、柔らかくなったようにも感じるが丸まった印象はない。

 定位や分離が良くなる印象で、それぞれの楽器の立ち位置が明瞭になる。ボーカルは詳細な表現も出るようになって、生っぽさが増す。バイオリンなどは、楽器の響きが出て、線の細さが解消される印象で、これによって表現が柔らかく(とか詳細が甘く)なるようなことがなく良い。

 ホールの反響などもより出て、空間的な広がりが増す。定位や分離が良くなるのと合わさって、全体に立体感が増す。ひとつのスピーカーから楽曲が流れてきているように感じていたのが、パートごとに別のスピーカーから音が出ているような感じ方に変わる。

 音量が取りにくいヘッドホンなども十分に駆動する。K612PROでは、十分な音量が取れるが、爆音にはならない程度の音量までしか上がらない。(入力信号の大きさの都合という可能性もある。) 音の変化は先に書いた内容と同様で、駆動力が必要なヘッドホンでは、アンプ有無の差が大きいように感じる。
 また、バランスドアーマチュアについては、BAは効率が良いのでアンプの有無による差はあまりないのでは?と勝手に予想していたのだが、ぐっと表現のこまやかさが増すように感じで、自分にとっては驚きの結果だった。(高性能なDAPやアンプをお使いの方にとっては当たり前かもしれませんけど。)


〇アイドリング電流を変更した時の動作


 aune B1s(およびB1シリーズ)のユニークなところは、A級動作時のアイドリング電流を20mAと40mAに変更できるということである。回路が少しわかっている身からすると、A級動作になっているなら、アイドリング電流を変更しても動作は変わらないのでは?と思いがちだが、代理店さんに問い合わせてメーカに聞いてもらったところ、両方ともA級動作であり、アイドリング電流を40mAにした時の方が、アンプの制御性(電流制御の精度、と訳せばよいのだろうか?)が向上する、とのことであった。

 もちろん、アイドリング電流を増やせば使用可能時間が短くなり発熱も大きくなる。しかしメーカとしてA級動作の良さを活かすには40mAのアイドリング電流が必要だと考えて、運用時間を稼ぎたいときは20mA、良い音を楽しむなら40mAと切り替えることを提案してきたようである。

 40mA時は中低音の密度が増すのと、音の立体感(分離の良さ、定位の良さ)が更に増す感じ。20mA時でも悪くないのだが、40mAにした時の良さを感じてしまうとこちらの方を選択したくなる。20mAでは高音側の表現がややキツさがあるというか荒れた感じもするが、40mAでは、表現や分解能は維持(もしくは向上)しつつ、キツさが取れて、全体的に聴きやすさが増す。

 DAP(xDuoo X10)直挿しよりも20mA時の方が断然良いので、20mA時の動作でも十分に効果が分かるが、B1sを使うなら40mAでの動作で使いたいなぁというのが私の感想。

 一応書いておきますが、バイアス電流を変えたとしてもゲインは変わりません。音量が大きくなったりすることは原理上ありませんのでご注意ください。(全体の明瞭さが増して音量が少し大きく聴こえる可能性はありますが。)


〇発熱について


 発熱は大きいです。特に40mA時は、フレーム全体がなかなか温まります。放熱性の悪いケースなどに入れていると熱がこもるでしょう。

 真夏に炎天下でカバーを付けて使用する、とかですと、かなり熱がこもってしまって好ましくないと思います。しかし、そのような条件以外であれば私はあまり問題視していません。変な話ですが、フレーム全体が温かいということは放熱がしっかりできているということですし、手で持てるレベルであれば電子部品的には使用保証範囲内です。(85℃保証品というのが一般的。) もちろん、温度が上がれば寿命は縮まりますが、一般論で言えば温かい程度であればほとんど問題になりません。B1sについては、内部部品の温度がどの程度かは分かりかねますが、充電しながら5時間以上連続稼働しても『温かい』レベルで安定していたので、私は問題ないと判断しています。(ただし、真夏での使用は避けるとする。)



〇雑感


 auneというメーカは、ある種のこだわり、というかプライド、明確なコンセプトを持つメーカーだなぁというのを感じました。M1sの時も感じましたが、端正なデザインをするメーカーだな思います。商品コンセプトもそうですが、ある種独特な美的センスを大切にしているメーカなのかな?と思っています。
 また、M1sの時に感じた、中高音域の明瞭さ、分離の良さ、低音はぼやけずに控えめな表現は、B1sにも共通しているように感じます。ただ、M1sになかった中低音域の豊かさや暖かさはB1sの特徴かなと思います。

 B1sは飛び抜けた出力の大きさも無ければ、DACも無く、アナログ入力1つとアンバランス出力1つというこれ以上ないシンプルさ。シンプルと言えば聞こえが良いですが、ぶっちゃけ地味な商品です。


 高性能なDAPが価格帯問わず乱立する中、機能面でB1sを指名買いするのは難しいと思います。しかし、底力はあると感じましたし、操作感の良い小型DAPと組み合わせてauneの音を楽しむというのは十分にあり、と思います。特に、aune M1sと組み合わせれば、分離の良さに加えて、M1sに不足しがちだと感じた中低音の暖かみを上乗せできるのは?と思われますので、試す価値があるかな?と思います。

 なににせよ、私が他にアンプを持っていれば、このアンプの相対評価ができたのだろうと思いますが、それもかなわず…。本心を言えば、良い物ですよ!とお勧めしたいところですが、他と比べてないのでなんとも、という感じであります。

今回は七福神商事(TSH Corporation : Amazonストアフロント)よりサンプルをお借りしてのレビューでした。




カラーバリエーションは銀赤と黒黒の2つ。もともとミニミニケーブルは付属しますが、高品質なAL6というケーブルとのセット販売も行われています。


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