私の個体は右奥側のグリーンレモンの方です。同時期に製造された同じモデルを同時期に友人が購入してまして、それとのサウンド比較をすると驚くほど音が違う!
というわけで、珍しいと思われる「ギブソンカスタムショップ製ギターの同時期の同じモデルでのサウンド比較」についてまとめます。
最後にも書きますが、あくまで一例でして、ここまでの差は珍しいのではないか?と考えています。
〇カスタムショップ製レスポールの比較レビューを書いたきっかけ
今回、このような内容を記事にした理由は以下のような条件が揃っていて、フェアな比較ができたと感じたからです。
・同じ時期に製造された同じモデルの色違い
・同じ人によってセッティングされた個体
・同じ機材で比較&交換して比較の両方ができた
・同じ日にスタジオで同時に比較
・ギタリスト以外にドラマーも意見をくれた
それでは、比較実験によるレビューと分かったことを示してゆきましょう。
〇2本のレスポールの外観・スペック
先に書いた通り、仕様およびセッティングは全く同じと言って良いレベルです。セッティングせずに販売している店や中古が入り混じった状態で弾き比べるよりもフェアな環境でした。以下では写真左のチェリーサンバーストの友人の個体を「赤」、グリーンレモンの私の個体を「黄」とします。
スペックや見た目の違い
・2023年モデルのMurphy Lab Ultra Light Aged 1958 Les Paul Standard
・Custombucker AlnicoⅢ アンポッテド
・共に杢目はあっさり
・赤のメイプルは柾目
・黄のメイプルは板目
・赤よりも黄の方がクラックが深くて激しい
・赤よりも黄の方が軽い(4.0kg弱vs3.8kg台)
・弦は銘柄とゲージも同じ(たまたまだけど)
〇Gibson Custom Shop 1958 Les Paul Standardのサウンドの個体差
先に、それぞれの特徴を列挙しましょう。
チェリーサンバースト(左・赤)の特徴
・ドンシャリ
・低音に締りがある
・固く鋭いサウンド
・ザクザクと刻むサウンドが厚くて気持ち良い
・一聴してパワーがある
・モダンな印象でスタンダードラインに近いと言える
グリーンレモン(右・黄)の特徴
・中音域に集まっている
・低音は出ているが柔らかい
・主音にまとわりつくような倍音
・クリーンサウンドでも甘さがある
・一聴して音の密度が高い
・ヴィンテージLPらしさが濃いが誇張感も否めない
やや極端に表現しながら比較すると…
・赤の高音は耳に痛い成分がある
・黄の高音は明らかに柔らかい
・ハイポジをチョーキングすると…
・赤は「キューン」
・黄は「ギューン」
・歪ませてオープンコード一発を鳴らすと
・赤は分離感があってシャキッとしている
・黄は轟音で迫力があるが潰れ気味
・クリーンでは
・赤はチャキっとしていてソリッドギターらしい
・黄はセミアコのようなエアー感もある
〇2本のレスポールの比較レビューの感想
驚いたのが、アンプとエフェクターのセッティングを変えずにギターを入れ替えてみても傾向が変わらず、どう弾いても上記の違いが出ていたことですね。高音の出方が違う原因としてありえそうなものとしてトーン回路のコンデンサかPOTの個体差も考えてトーンを弄って比較もしています。赤のトーンを7ぐらいまで絞っても黄のトーン10の方が太いサウンドになっていました。さらに、両個体を購入直後に比較した時も、しばらく経過(弾きこんだ)後=今回も同様の傾向があったので、これは個体差かなぁと思われます。
で、どちらが良い音か?というとそれぞれの好みの問題であり、友人は80~90年代ロック/メタルのパワーがあって鋭さのあるレスポールサウンドを求めており、対して私は60~70年代の古いロックやジャズ、ブルースなんかも弾いてみたいと思っています。これらとそれぞれのサウンドの特徴を照らし合わせるとピッタリとマッチしており、お互いに「お互いに良く似合うギターを選ぶことができたね」と納得している次第です。
〇サウンドの違いの考察
ギターの個体差という話は長い間に渡って何度も議論されてきた内容です。ギブソンに詳しい増田さんは個体差は小さいと言っていますし、digimartの過去の比較では軽量なレスポールはブライトになる傾向があることを実験により示しています。
これらと比較すると、今回の私の比較では個体差は結構生じており、軽量な方が中音域の密度が高いことを示していて齟齬があります。言い換えると、質量以外の個体差の影響って結構あるのでは?ということです。
私は「私より経験のある増田さんの発言や複数本での比較実験」を否定するつもりはありませんし、例に挙げた経験談や実験でも、「個体差は無い」とは言っていません。
一応考察しますと、木材の質の違いの他に塗装の違いもあるかも?と感じています。黄の方がクラックが激しく、クラックが激しいことはサウンドに影響を与えるのではないか?ということです。塗装についてはクラックの無いVOSとクラックがあるMurphy Labでは音が違うという話はいろいろと出ていますから、これは無視できないのかな?と考える次第です。
ですので、もしかしたら使用に応じて赤のクラックが進行して弾きこんでいけば、今回よりも差は縮まる可能性があると考えています。また、弾き方によって結構変わりますから、そのあたりで吸収されるところもあると思われます。
〇これからギブソン カスタムショップ製レスポールの購入を考える人へ
今回の比較は何十本も比較した話ではないため、赤と黄のサウンドが平均値のどのあたりに位置するのかが分かりません。各所のレビューやレビュー動画を見る限りでは、厚みがあって太さのある黄の個体に近い傾向があるように思うので、赤が平均から外れているという可能性はあるかと。あとは黄が平均に比べてどれぐらい甘いサウンドなのか?は気になるところです。
では、購入を考える際の私なりのアドバイスを考えてみます。
スペックや見た目を重視して、例えば3.8kg台の軽量な個体やバリバリに虎杢が出て好みのカラーの個体といった内容だけを選定基準にして選び、甘く太いサウンドがカスタムショップの標準と考えてしまうと、思ったのと違う結果になってしまうかもしれません。
高額な商品ですから人によってコダワリポイントが違うのはアリであり「虎杢が出てないと買いたくない」というのは購入動機として重要ですから「好みの見た目の個体が出してくれる音が、それはそれで個性として受け入れる」というのであれば問題ないでしょう。今回の比較でもそれぞれ良い音ですし。
しかし、サウンドを重視するとなると無視できず、やはりじっくりと試奏して比較する必要性が出てくると思われます。同じ店に目当てのスペックの個体が複数本存在しないとなると難しい比較になりますが…
「見た目が最高で音も自分好みで最高」というのはかなり難しい買い物になるでしょう。それを目指して長い旅に出るのもよし、優先順位を決めて捨てるところはキッパリと捨てるのも良いと思います。この比較レビューを読んでいただいて「意外と差があるんだな」と軽く心に留めておいてもらうだけで十分です。