私があらためて語る必要のないほどの名機と言ってよいだろうSENNHEISER HD650の廉価版になります。
なぜ買ったのか?や、このモデルの背景などをおさらいしつつ、軽くレビューします。
〇今更SENNHEISER HD650の歴史を振り返る
SENNHEISER HD650は一時代を築いた名機と言って差し支えないと思います。モデルライフが以前は長かったとはいえ、2004年に発売になって、直接的な後継もしくは関連モデルとなるHD660Sが登場する2017年まで13年間、HD800が登場してフラッグシップの座から降りる2009年までの5年間は、他のメーカーをひっくるめても最高峰の一角であったと言ってよいのではないでしょうか?
さて私は大学時代にヘッドホン・イヤホンに興味を持ち、就職してしばらくして離れて、ここ数年で戻ってきたのでこれと照らし合わせてみます。
HD650がデビュー直後ぐらいに私はオーディオ関連に興味を持ち始めました。当時は高価なモデルも少なく、価格の高さもさることながら、人気や知名度、評判の良さなど、どれを取っても『すごいやつ』だった印象があります。私の偏見が多いに入っていますが、高級ヘッドホンを語るならHD650は試しておくべき、みたいな印象でした。(その後、たぶんedition7あたりが登場して、青天井になったのではなかったか?と思います。)
私がオーディオ趣味から離れてしばらくの後、再度興味を持ち始めた頃にはゼンハイザーや各社から更に高価なモデルがたくさん発売になっていました。既に私の知るモデルはほとんど生産終了というなかで、HD650と、当時、人気を分け合っていたK701は共に市場で生き残っており、すごいなぁという感嘆と一種の安心感がありました。
当時から生き残っている機種を思い出すなら、MDR-CD900STとかHD25-1とかの「現在でも取り上げられることが多い機種」で、こちらは業務用などの側面もありますが、やはり名機と言って差し支えないように思います。
ちなみに、以前の私のHD650への印象は良くありませんでした。というのも、まともな再生環境を持たない私にとっては、全く鳴らせなくてモコモコ&スカスカと良いところを活かせない感じで…。これはもっとちゃんと趣味にしている人向けだな…と思ったのを覚えています。
〇DROP HD6XXについて説明
HD6XXは、共同購入サイトで有名なMassdrop(現在のDROP)が、名機であるHD650の付属ケーブルを短くして3.5mm化し、塗装などを簡略化して値段を抑えたモデルとして企画されました。使い勝手を上げて、見た目を気にしない人はお得だよね!ということです。このあたりの経緯はSandal Audioさんが詳しいので、そちらを見るのが良いでしょう。
何度も販売告知がされているところを見ると、よほど売れているのか、よほど売れていないのか…。
〇無理矢理一言雑感
やや厚みがあり暖かみがあるバランスながら、中高音の鮮やかさが冴えて、繊細な表現もこなす。
〇SENNHEISER DROP HD6XXのレビュー
■全体の印象
フラットから中低音から低音域を少し持ち上げた感じ。高音域の鮮やかさもあり、楽曲によっては軽いドンシャリに感じる。どの音域も分解能が高くて潰れた感じもなく、しかもそれが大きな入力でも印象が変わらない。アコースティックな楽器との相性が良く、ギター、ピアノを楽しく聴けた。エレキギターや打ち込み系との相性も良く、キレの良い音が楽しめる。低音域もしっかりあってノリの良さは出ているが、引き締まった感じやキレはそれなり。
■各音域の印象
バスドラやベースラインはそれなりの音量でノリの良さがある。重低音は、鳴らすポテンシャルはあるが量自体は必要十分から控えめといったところ。キレや締まりはそれなり。
スネアやタムは少しだけ柔らかい印象を受ける。シンバルの表現は非常に繊細でニュアンスが出るし、サスティーンも長い。刺さりは感じない。
ボーカルの表現は上手い。鮮明さと厚みの両方を持つ。男性・女性・低音高音問わずに上手いし、複数人で歌っている時の鳴らし分けも上手い。他のパートに埋もれるようなこともない。息の音やリップノイズは適正量出て生っぽさがある。ボーカルと適正な距離がある感じで鳴る。(これはボーカルに限らず全体的な印象。) サ行やパ行の刺さりは感じない。
ギターは全般的に上手い。アコースティックなギター(クラシック、フラメンコなど)との相性が良く、ボディーの鳴りと弦のキレのある響きが楽しめる。エレキギターとも相性が良く、ディストーションのエッジ感やキレが良く出る。リバーブや空間系エフェクトの掛かりも良い。
ピアノも上手い。今回、HD6XXを買って良かったと思ったポイント。鮮やかさと軽快さ、厚みを伴った響きがバランスが良い。少し柔らかい(丸い印象)と感じる人もいるかも。バイオリンも上手い。楽器由来の響きを出し、弦をこするザリッとした成分も出る。表現力も申し分ない。
トランペットやサックスなどの吹奏楽器は、鳴らし分けも上手い方で響きも出る。どちらかというと少しダークな雰囲気の方が合い、目の覚めるような鋭さやキレはない。(これはバイオリンなども同様)
音量バランスは特に順位付けをするほどの差はない。
■感想
非常に満足しています。名機とされてきただけある。バランスの良さがこのモデルのすばらしさだろう、と思います。「どこがどう」と言えるだけの飛び出した特徴や飛び出た音域は無いのですが、全体が普通っぽいのに表現力がすごい、という底力を感じます。
この音質を入手できたという嬉しさに加えて、過去、多くのメーカーがベンチマークにしたであろうサウンドが自分の中の基準のひとつになったことに価値があると感じています。そんな難しいことを考えなくても、のんびりと心地よく音楽を聴く時間の優雅さを思い出したように、色々な音源を聴くってのも良いじゃないですかね?
〇HD6XXを買う際の注意事項
かなり慣らしを入念に行いました。慣らし前は中高音やボーカル域にわずかに刺さりと雑さを感じましたが、慣らしの後は表現の上手さが際立ってきました。
今回購入したのはHD650ではなくHD6XXなので、HD650と音が異なる可能性も有ります。ただ、Sandal Audioさんでは差は感じられないように書かれているので、そこまで心配しなくてよいでしょう。むしろ、HD650は息が長いモデルで時期によって音も少し変わっているようですので、その誤差に埋もれる程度ではないか?と考えています。
今回は、TOPPING D3を使用しました。音量は十分に取れます。もう少し高性能なアンプを使用したらどうなるのか?という興味はありますね…。
DROPは普段はHD6XXを日本に送ってくれないようですが、今回は色々とまとめたセット品での購入だったので、そのあたりの発送先のブロックが曖昧だったようです(?) 転送サービスなどを利用すればOKですが、そうすると国内で入手できる金額に近づいてくるので悩ましいところです。
今回のセットに有った交換用パッドは、日本ではYAXIで購入できそうな、筒状のタイプでした。一方、純正はすり鉢状になって広がっており、形状が大きく異なります。
結論から言うと、HD650らしさは純正を選ぶべきです。形状が異なる社外品では、音がダイレクトに伝わり低音域の厚さは増しますが、音の広がりがスポイルされ、HD650の良さが失われているように感じるからです。
〇最後に
今更HD650もしくはHD6XXを買うのは悩ましいところで、もっとコストパフォーマンス的に良いモデルはあると思います。私の場合は『色々なモデルに対する経験値が足りないなぁ』と思っていたのが今回購入を決めた理由のひとつで、もう一つは少し前に試した時にピアノの鳴り方が現在の好みにマッチしたことでした。
手元に届いてからこればっかり使っており、まだまだ魅力のあるモデルだよなぁと感じながら楽しんでいます。